みなさまいかがお過ごしでしょうか。
AM4:43、わたしは郡山駅前のカラオケにおります。ドリンクバーのピンクハニーソーダを眺めながら、6:13郡山駅発のなすの258号を待っています。
仙台でのコンサートを終え*1、おいしいごはんをいただき、たくさんの方と楽しくお話をして、先週車検を終え絶好調の愛車プジョーで東京に帰ろうと走り始めた一時間後。ディスプレイにはAnti Pollution Errorの文字が光り、エンジン音は上がらず低空飛行。しかし立ち寄ったサービスエリアでカフェインスパイス炭酸などを一気飲みし眠気を置き去りにしてきたわたしは意外なほど冷静な判断で車を脇に寄せエンジンを切る。
一縷の望みをかけてイグニッションキーを回すも、点火しないエンジン。あぁブログのネタができたな、と鼻で笑い財布で泣きながらロードサービスを呼ぶ。もう故障には慣れていて、All the things you areを半音上で弾きながらでもロードサービスを呼ぶことができるだろうと思っている。
いつもの手順でレッカーを手配し、あとは到着を待つばかり。いつもと違うのは、そこが高速道路の上であるということ。故障した車を降りるのが危険なことは重々承知しているので、運転席で待機する。
このシチュエーションではどんなリスクが想定されるだろうか?そう、尿意である。
直前にカフェインを摂っていて、十分に水分補給をしているし、トイレに行ってから時間も経っている。尿意リスクが満漢全席とも言える状況で、福島から郡山までやってくるレッカーを待つ。見ないふりをしても、不安は砂時計のように静かに積もっていく。
僅かな、しかし確かな尿意の萌芽を認めたころ、電話が鳴る。神はいたのだ!してもいない祈りが通じたことにしながらとった電話口からはこう聞こえた。
「あ、本宮インターより前ですか?通り過ぎたっスね」
車内に緊張が走る。
できるだけ違うルートで水分を体外に排出できるよう、窓を開け外気を入れて汗をかく。関係各所の筋肉の収縮を確かめながら、膠着状態を保つための姿勢を探し続ける。気休めでしかないとわかっていても。
2周目で無事到着したレッカー車にプジョーを載せ、助手席に乗せてもらう。
「本宮インター降りたところでいいですかね」
タクシーはもう走っていない。まわりは畑。駅まで歩いて2時間。夏。尿意。
「ご相談なんですけど、郡山のほうまで乗せてもらないですかね」
「いやー福島市内に戻るので逆方向ですね」
「そうですか…」
沈黙。エンジン音の中に互いの呼吸を聞く。譲れない都合。尿意。
「…」
「…」
「…じゃあ駅まd 「ありがとうございます!!!!」
ゆるみかけたダムの引き締めに気を取られて道案内を間違えながらも郡山駅に着き、楽器を降ろしてレッカー屋さんに別れを告げる。この上ない感謝を捧げながら。
しかし南無三、この時間に空いている店は簡単には見つからない。しかも、キャリーのついていないコントラバスを右肩に担いで歩けば一歩ごとに強めの振動がからだに加わる。
多少なりとも自尊心がまだ残っているので、スタンディングオベーションだけは避けたい。先ほどの畑ならまだしも、市街地である。
クライマックスへの高まりを抑制しながら歩き、ベルを鳴らしても誰も現れないカラオケ店に永遠の時の流れを感じ、床面積の2/3をソファが占める部屋にコントラバスを迅速に突っ込むというラストミッションを乗り越えて、いまわたしは社会との紐帯を切らずに済んでいる。
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他にも書くことたくさんあった気がするけど、新幹線来るのでおしまい。ご来場のみなさま、パリンカさん、そして誘ってくれた英里さん。ありがとうございました!
*1 ストリートピアノ以外で英里さんとデュオはこれが初めて。いいコンサートでした。またやりたいなぁ。